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家電製品の「なぜ?」「故障?」「どういうこと?」を簡潔に記した管理人の備忘録。ご質問はお気軽に。

オンリーワンメーカーが大手家電メーカーを凌駕する時代が来た

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家庭用の炊飯器がここ数年、高級化を辿っている。高付加価値、高単価という流れは炊飯器に限らず、掃除機や空気清浄機といった家電製品にもこの傾向がある。

調理家電に限って言えば、炊飯器は高級路線を辿っているのに対し、電気ポットは電気ケトルという新しいマーケットに割を食う形で縮小し、省エネという付加価値を付けて高単価製品をリリースするも苦戦を強いられている。

コーヒーメーカーはネスカフェバリスタやドルチェゲストのようなキラー商品がマーケットを一蹴し、デロンギのエスプレッソメーカーも高単価ながら販売台数が伸びている。

調理家電で高付加価値、高単価商品が売れるカテゴリーに共通しているのは、「味」に関わるカテゴリーの製品は高くても売れるのがここ数年のトレンドだ。よく言われることだが、外食から内食へとシフトすることによって、「おうちで食べる・飲む」事にお金を掛けるように家計がシフトしているのは間違いない。そこで今日は日本人ならほぼ毎日口にする「ごはん」の味を左右する炊飯器の事をお話したいと思う。

マイコン式炊飯器からIH炊飯器が主流に

昭和の時代、家庭用炊飯器の主流はマイコン式の炊飯器だった。内釜の下に電熱式のヒーターがあり、ヒーターが過熱することにより内釜に熱を伝え、お米を炊飯する方式の炊飯器だ。

更に、マイコン制御により、火力を調整する事が出来、炊き上がりに差を付けることが可能になった。厚釜が美味しいという、ある意味正しくもあり、ある意味間違っている厚釜信奉が生まれたのもこの頃からだ。

話は逸れるが、前述の「厚釜が美味しい」というのがある意味正しくもあり、ある意味間違っているという件を簡単に説明すると、 厚釜は高火力だから美味しい 厚釜だから高火力になる訳がない。釜の下にあるヒーターで加熱するので釜が厚い分、お米に熱が伝わるのは遅くなる。 厚釜だからご飯が均等に炊き上がる 厚釜は薄い釜と比べて熱が伝わるのが遅い反面釜全体に熱が伝わるのでお米に均等に熱が伝わり、ご飯の炊きあがりが均一化する。結果、ムラなくご飯が炊けるので美味しいと言えなくもない。

昭和から平成へと時代が移る直前、炊飯器にも革命的な製品が誕生した。IH式炊飯器の登場だ。簡単に説明すると、マイコン式の炊飯器とは異なりヒーターが無く、電磁誘導を利用して電流を流し、釜自体を発熱させる方式の炊飯器である。ヒーターを利用したマイコン式と比べ、元々の火力が強いことに加え、釜自体が発熱するので火が近いので、強火力でお米を炊き上げることが可能になった。

今も昔も強い火力でお米を炊く薪を使用した竈を最高峰と考え、電気を利用した炊飯器で竈に近づけるために、メーカーは試行錯誤している。その結果生まれたのがIH式の炊飯器だ。

進化するIH式炊飯器

平成の時代になり、21世紀を迎えIH式炊飯器はメーカーごとに独自に進化を遂げる。メーカーが歩み、目指した炊飯器像が独自進化を遂げ、家電製品の中でも非常に面白いカテゴリーになった。

圧力IHで畳みかけた象印魔法瓶と三洋

圧力IHという新しい製品でマーケットを引っ張ったのが鳥取三洋と象印魔法瓶だ。圧力IHとは釜の中の気圧を変動させる事により、水の沸点を上げることが出来る。水が沸騰する際に起こる対流を何度も釜の中で起こす事により、お米を極限まで動かすことが出来るのが圧力IH方式の炊飯器だ。 健康ブームに乗って玄米炊飯に強みを発揮し店頭では象印、通販では鳥取三洋がシェアを爆発的に伸ばした。

高級鍋メーカーとタイアップして高級路線に進みかけたタイガー魔法瓶と三菱

象印と三洋が圧力IH方式で売り上げを伸ばす中、三菱とタイガーは高級鍋メーカーとタイアップした内釜で攻勢を掛ける。三菱はヴェローナ、タイガーはビタクラフトという多層系の高級鍋メーカーとのタイアップで店頭を賑やかした。 多層系の鍋はIH方式の炊飯器と相性が非常に良く、発熱効率が抜群だ。電磁波が層を通るたびに発熱が加速し、結果的に高火力を得る事が出来る。店頭プロモーションでも、ステンレスピカピカの内釜は見栄えも良く、調理器具に明るい奥様達の心をキャッチすることに成功する。

丸ごと洗える内蓋で市民権を得たタイガー

同じくタイガーの炊飯器だが、タイガーは唯一炊飯器の蓋を丸ごと洗える構造を持っている。他社は何れも内蓋のみ外して洗える構造だが、蓋ごと丸ごと簡単に(引っ張るだけ)外せる唯一無二の構造はお手入れにこだわる奥様には非常に受けが良い製品だ。

遅れて圧力IHに参戦した東芝

日本初の電気炊飯器を製造販売した東芝は、遅れて圧力IHに参戦する。個人的な感想だが、内釜にこだわる程でもなく、タイガーのようにお手入れにこだわる程でもなく、パナソニックのように全面で発熱するIHでもなく、家電店本部のリベートメインのプロモーションが強いという印象だった。 遅れて参戦した圧力IHで市場を巻き返しを図った東芝だが、特記事項は無い。

全面IHとスチームで独自路線に突き進むパナソニック

各社圧力IHに参戦する中、頑なにIH本来の火力で勝負を挑んだのがパナソニックだ。各社基本的には底面しか発熱しない構造の中、横、最上部、上面とすべての面で発熱する全面IHを開発し、オーブンレンジ業界で大流行したスチーム機能を炊飯器に持って来たのが素晴らしい。 内釜に銅釜を採用し、見た目もキャッチーな製品に作り上げたのも店頭映えが非常によく、昔からのナショナルファンの期待に応えるのがさすがパナソニックだ。

超高級内釜で10万を超える炊飯器をヒットさせた三菱

現在まで続く、超高級炊飯器の道を作ったのが、三菱の本炭釜炊飯器だ。市場価格が10万円を超える炊飯器がヒットするとは現場では思っていなかっただろう。プロモーションでも東京の某有名ごはん屋さんを使ったプロモーションビデオを店頭で流し、アイキャッチを作り、引っ張ってきたお客さまには本炭釜の存在感でアピールするという手法は非常に好感が持て、実際に販売にも繋がっていたと言える。

各社高級内釜路線に

現在では各社嗜好を凝らした高級内釜で火花を散らしている。市場価格は10万円前後とかなり高額だが、「おうちごはん」にお金を掛けるここ数年の流れを創り出す要因となっている。 象印の南部鉄器 極め羽釜、タイガーの土鍋釜、東芝のかまど本羽釜、三菱は変わらず本炭釜、パナソニックは遂に圧力IHを採用しダイヤモンド竈釜、と各社挙って高級内釜路線にシフトしている。この流れはしばらく続くだろう。何故なら高級内釜という付加価値を商品に加えないと高単価商品として価格が維持できないからだ。

高級内釜路線に一石を投じるバーミキュラ

マーケットが高級内釜一辺倒の現在に、一石を投じる商品が調理器具メーカーから発売され爆発的なヒットを飛ばしている。 それがバーミキュラのライスポットと呼ばれる炊飯器ではなく炊飯鍋だ。非家電メーカーが発売した、高気密に答えを求めたこの炊飯鍋がマーケットで受け入れられる現在に日本の調理マーケットの多様性が感じられる。家電メーカーが開発した炊飯器には当たり前に標準装備されている保温機能を無くして、炊飯することのみに注力したその製品は数カ月の予約待ちになっているという。